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心の密度と次女のチキンライス。

『ママ!行ってきまーーーーす!!!』

炎天下、分厚い胴着に身を包み、声を弾ませ飛び出した。

次女みーたん。
柔道を始めて、初めての夏を迎えた。

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アイツは柔道を初めて、とても変わった。

明るくなった。
笑顔が増えた。
いろんなことを話してくれるようになった。

やりたいことに取り組める幸せを、アイツなりに噛み締めているようだった。

「柔道やりたい」と初めて言われた時、正直戸惑ってしまったことが、
まるでなかったことのように、
今ではアイツの胴着姿を見るのが楽しみになっていた。

柔道から帰ってきたアイツは、夕飯作りに取り組み始めた。

「ママはお仕事だから、アタシ、作っておくから!」

誰よりも料理が得意でなかったアイツが、
今では誰よりも料理をすることを厭わなくなった。

同じやるなら、最初から最後まで。
岡本家の台所における、暗黙のルール。

一人でやりきる。
この達成感は、どんなに時間がかかろうとも何事にも代えがたい。

アタシは台所の全てをアイツに託し、現場に向かった。

アタシの頭の中は、台所で一人立ち回っているであろうアイツのことでいっぱいだった。

アイツは完全なる個人戦で、料理を完結した経験が、他の兄弟より少なかった。

現場に向う途中の夕焼け。
きっとアイツが立ち回る台所にも差し込んでいるにちがいない。

『チキンライス、作っていい??』

『野菜はなんでも入れていい?』

『どれくらいの大きさに切ればいい?』

『ケチャップを入れるタイミングっていつ?』

『どれくらい入れればいい?』

自宅からの電話を取ると、台所番長みーたんからの質問が
矢継ぎ早に飛んできた。

どうやら一人で格闘しているらしい。
一生懸命に取り組んでいる様子が、声からも伝わってきて、無性に愛おしく感じた。

ピラフとしてのチキンライスでなく、ケチャップライス。

『野菜はなんでも入れていいよ、玉ねぎ、人参は必ず入れてね。甘みがでるから。』

『小さく切って食べやすくね。』

『野菜はしんなりするまでしっかり炒めて、ケチャップを入れた後もしっかり炒めるんだよ!』

『ケチャップにも火をしっかりいれなきゃ、酸っぱくなっちゃうから!!』

短い電話の中に、アタシは言いたいことを全て詰め込んだ。

アイツは「はーい!」とだけ返事をし、電話をきる。

打ち合わせでは、
いよいよ10月18日の朗読舞台の詳細が明らかになり始めていた。

今回の舞台では、夫との舞台共演も実現する。今から楽しみでたまらない。

全ての仕事を終え、帰宅すると、

待ってましたとばかりに、アイツは自作のチキンライスをよそってくれた。

『超美味しかったよーーーーー!』とセーマンがいち早く報告してくる。

『スープはね、カン姉ちゃんが作ってくれたんだよ!
やっぱりカン姉ちゃんのスープは最高だー!』
そう言って、セーマンがスープを運んでくれた。

仕事から帰り、着席した食卓。

運ばれてくるチキンライスとレタススープ。

アタシにとって、最高の景色だった。

『いっただっきまーーーーす!』
空腹だったこともあり、アタシは勢いよくチキンライスを口に入れる。

「うん!美味しいーーーーーーーー!」アタシが声を上げると

アイツは、嬉し恥ずかしそうに、静かに笑っていた。

その日の夜。
いつも以上にノートいっぱいに書かれていたアイツの日記。

アイツの気持ちがあふれていた。

きっと日記の密度は、心の密度。

題:私が夕食を

今日は、私が夕食を作りました。
メニューは、前母から教わったチキンライス。
今日は母が仕事で忙しかったから、私が作ることになりました。
まずは、玉ねぎにんじん、しいたけ、鶏肉を細かく切ります。
特に玉ねぎは泣くほど目が痛かったです。

途中でわからなくなったから、すぐ電話。
最後のケチャップの量がわからなかったから多めにしました。
母ほどではないですが、おいしかったです。

どんなレストランで食べるより、最高に美味しいチキンライス。

味ももちろんだけど、アイツの心の密度が上昇したことに、喜びが溢れ出す。

アイツもアタシも、この夏、どれだけの達成感を味わえるだろうか。

挑戦すること、そしてそれを見守ることを大事にしたい夏。

みーたん、ありがとう。ご馳走様でした(。-人-。)

【2015年7月31日 オフィシャルブログ「心の密度」より】

 

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