子育てエッセイ

▶︎ギリギリセーフ。

いつもご訪問ありがとうございます。5人の子育てママウンサー岡本安代です。
これは、ちょうど4年前の今日、2016年4月9日のお話です。

ピアノ教室
の日。
グループレッスンに通うコーマルは、
クラスのみんなについていくのが必死だ。
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クラスのみんながスラスラ弾けていても、
コーマルは、ひっかかりながら、
やっとの思いで弾き終える。
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いつもそうだ。
コーマルは、
みんなの何倍もスローテンポで、
みんなの何倍もつまづきながら、
同じ曲を弾いている。
どんなに上手く弾けなくても、
コーマルはピアノを諦めようとはしない。
母は、ピアノについて
そっとしておくことが増えてきた。
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この日は発表の日だった。
1人ずつ、同じ曲を弾いていく。
同じ曲を発表するということは、
出来不出来の差があらわとなる。
付き添う母にとって、
なかなか心地よい時間とは言いにくい。
やはり、この日も
みんな危なげなく弾きこなす。
見事なもんだ。
そして、コーマルの番がきた。
彼は緊張していた。
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必死に鍵盤に向かう。
よりたどたどしく、
よりゆっくりと、
より恐る恐る、音をたどっていた。
予想通り、
他の生徒さんには程遠い仕上がりだった。
演奏を終えたコーマルは、
すぐさま、母を見て言った。
『ママ!
コー、上手だったでしょう?!』
息子の予想外の言葉に、
母は面食らってしまった。
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『だってね、練習いーっぱいしたもん!』
コーマルは得意げに笑い、
母の耳元で勢いよく囁いた。
私は慌てて言葉を飲み込む。

そうか。

これこそ、コーマルの今の全力なのだ。
他の子供達と比べてどうのこうのじゃない。
仕上がりはどうであれ、
コーマルは、一生懸命な姿を、
今まさに見せてくれたのだ。
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余りにたどたどしかったコーマルに、
『次はもっと頑張ろうぜ!』と言おうとしていた自分。
ギリギリセーフ。
予定していたセリフを丸ごと飲み込み、
『うん!上手だったぞぉー!』
私はコーマルの坊主頭を撫で回しながら、
彼と同じように耳元で力強く囁いた。
コーマルは言った。
『よし!次はもーっと練習しようっと!』
母と息子は目と目を見合わせて、
互いにニヤリと笑い合った。
『おー!来週が楽しみぃー!』
そう言いながら、私は
もう一度、彼の坊主頭を撫で回し、
ひとりほくそ笑む。
あの時、瞬時に
言葉を飲みこむか、吐き出すか
恐らく流れが変わっていたのではあるまいか。
流れは変わらずとも、
コーマルの気持ちが変わるような気がする。
よかった、、、。
あの時、飲み込んで。。。
ギリギリセーフ。

【2016年4月9日「ギリギリセーフ。」より】