①気持ちは「桶狭間の戦い」
6月1日、月曜日。月始めは、週始めだった。
我が家では、弁当作りを家族みんなで担当する週1弁当番長という取り組みに励んでいる。
月曜日の弁当番長は、二男セーマン。挑戦者の中で、最も若い。
この前中学生になったばかりの中1男子。彼の挑戦は、前の晩から始まっていた。
日曜夜。大河ドラマ「麒麟が来る」を見て、心が侍になった彼は、桶狭間の戦いに挑む、織田信長のような気持ちで、料理本を開いた。
「モヤシってレパートリーそんなにないですよね?!難しいですよねー」
家中の料理本を集め、あらゆるモヤシ料理をかき集める。
「・・うーん、、どうしようかなぁ・・・」
少ない引き出しで、どう戦うか、悩んでいた。
「よし!決めた!これ、美味しそうですよね!」
メニューが決まれば、もう悩むことはない。あとは突き進むだけ。
「じゃあ、明日、弁当作りもあるし、その前にもやることあるんで、寝ます!おやすみなさい〜」
___ん?・・・弁当作りの前にやること?
母は、不思議に思いながら、母は眠りにつく息子を見送るのだった。
②パッション!レボリューション!
翌朝。
キッチンには、先月までのセーマンとは全く別のシルエットが佇んでいた。
調理場に立つには、非の打ちどころのない清潔感ヘア。
↓5月末のセーマン。(写真左)
弁当作りの前に、やらなければならないこと・・・
それは断髪だった。
姉のみーたんが手慣れた手つきで、弟セーマンの頭を実に手際よく刈り上げる。
___あんたたち。。。よくこんなに早く・・・
時計は午前4時台だったと思う。(母さん、眠くて記憶なし・・・)
「6月1日なんで。どうしても、頭は、やっておきたかったんですよー!しかも、お弁当より前に〜」
朝バタバタ時間ぎりぎりに出かけていた小学校時代のセーマンは、もうどこにもいない。
恐るべし、丸刈りパッション。
席替えと丸刈りは、月初めと決まっている、小さなミッション。
姉のバリカン、快適モーション。
バリカン音で目が覚める母、前代未聞の朝のアクション。
スッキリ坊主でレボリューション。
(ラップみたいに言ってみる。)
③活力炒め
持ち場についた彼は、早かった。
「どう切ればいいですっけ?」
___メイン食材に揃えて切ると食べやすいよね!千切りでいいと思うよ。
「なるほど!わっかりましたー!」
そう言うや否や、人参を切り、、、
チンゲンサイを切り、、、
そして、豚肉を切った。
そして、まずは人参、豚肉から。火の通りにくい順に、全てを炒める。
鍋の中で、彩野菜が、軽快に踊っていた。そろそろモヤシの登場だ。
ジュワーーーー!!!
野菜炒めを見ていると、元気が出る。ここには、生きる力が詰まっている気がする。
「よし!味付けは塩こしょう!これを卵で巻いて完成だーーー!」
ゴールは目前。すごいぞ!早いぞ!セーマン!
ただ・・・ここにきて、野菜炒めを卵で巻くことがこんなにも難しいことになるとは、
セーマンは思ってもみなかった。。。
④卵で巻くのが、難しい。
「あ!卵で仕上げる前に、もう一品もやしで作っていいですかね?」
___おお、了解!
魚肉ソーセージを取り出し、もやしに寄せて、千切りに。
水菜とゴマと和えて、味付けは自家製タマネギドレッシング。
あっという間にもやしサラダが完成した。
「よし!あとは卵で巻いたら完成だ!」
卵の上には、先ほど炒めた野菜炒めが陣取っていた。
キッチンに広がる静寂。この静けさは、二男セーマンの、緊張感を表している。
静かに卵に向き合うセーマン。
卵で巻くだけにも関わらず、まるで伝統工芸品を作っているかのような空気を出していた。
「うくっ。。。む、む、難しい・・・」
なかなか思い通りにいかず、やっとの思いで完成した一人分。
「あー、悔しいーー。せっかくここまで早くできたのに・・。卵が、時間かかりすぎたっ!」
___いいねー!あとは盛り付けるだけじゃーん!!!
「あ、いや、その前に、すみません!母上!ちょっといいですかね?」
セーマンの動きが、ピタリと止まった。__彼は、澄んだ瞳で、母を見た。
⑤完成!おかずの道はモヤシの華!
「母上、せっかく、ご飯盛り付けてて下さったんですけど、すみません・・・これ、変えていいですかね?」
___え?どういうこと?
母には二男セーマンの言っている意味分からなかった。
「あの、なんで、片側にご飯を盛り付けるのかなっていつも思ってるんですけど・・・。決まりとか、あるんですか?」
___え?決まりっていう訳じゃないけど。
「セーは、いつも思うんです。お弁当箱のセンターにドーンとおかずがあったほうが、メチャクチャ嬉しいと思うんですよ。みんなもその方が、テンション上がるんじゃないかって。」
___なるほど!そうか!
早速、お弁当箱のご飯を詰め直した。
魂のセンター分け。
なんと風通しの良いことだろう。映画「十戒」を思わせる、見事な道ができたぞ。(↑海が割れるシーンが有名なアレ。)
「卵巻き一本丸々だと中身が見えないから・・・」
「切ります!」と意気込むも・・・
「んあーーー!んもう!!崩れたーーーーっ!!!」と嘆く坊主。
__大丈夫!大丈夫!むしろ中身がよく見えるじゃーん!
想像以上の喜怒哀楽詰まったモヤシ卵巻き。気を取り直して、もう一本!
「盛り付けが時間かかるんですよね・・・」
そうブツブツ言いながら、セーマンは、一生懸命盛り付けた。
丁寧に、そーっと。
慎重に、ゆっくりと・・・。
あまりの集中力に、母も息を飲む。
ふと我に返り、そろそろ登校時間が気になってきた。
時間の確認と、空の様子を確認する母。
その時初めて、母やすバーンは、大きなミスをしてしまったいたことに気が付く。
しまった・・・!ずっと撮影していたはずの調理の映像が
ほぼ、セーマンの剃りたての青々とした後頭部になっている!
ウソやろ・・・・( ;∀;)
圧倒的に熱心なセーマンの様子に心奪われ、撮影していたこと自体を忘れる自分を悔やんだ・・・
しかし、そんな気持ちが吹き飛ぶほどのモヤシの華がお弁当箱に咲き乱れていた。
断髪式から始まり、お弁当センター分けを経由して完成したセーマン特製弁当。
ドーーーン!
奥の皿は、カンねーちゃんと、弟コーマルの分。ケチャップとお好み焼きソースの2つの味でフィニッシュ!
調理は20分。盛り付け30分。(調理>仕上げ)
センターにこだわり、モヤシの花を咲かせたセーマン、ご満悦。
週1弁当番長。作ることに意義がある。続けることに意味がある。大変よくできました。
この1食ができるまでの物語を、誰も知らない。だからこそ、
弁当番長の心の機微も全てを記しておきたいと思う。
みんながどんな風に味わったのかを、彼は見ることはできないけれど、
「美味しかったー!ごちそうさまでしたー!」
「さすがやね。美味しかったわ。」
という声が、セーマンにとって、一番嬉しいに違いない。
全ての食材に感謝。
そして何より、最後までお付き合い下さった、皆様に感謝。